神社や仏壇、美術工芸品に使われる金箔。今では、ソフトクリームなどの食品や、化粧品にも使われています。日本で作られる金箔の99%が金沢産です。
これまでのスポーツ大会で、会場内で金箔貼り体験や、優勝チームに副賞として金箔ボールを贈呈するなど、文化とスポーツのコラボレーションを行ってきました。その際協力いただいた金箔に関わる方々に、金箔の歴史や、スポーツ大会×金箔の取組について感じたことなどをお聞きしました。
お答えいただいた方
■ 松村謙一(まつむらけんいち)さん 金沢金箔伝統技術保存会 会長 松村製箔所3代目
■ 松村法行(まつむらのりゆき)さん 金沢箔みらい研究会メンバー 謙一さんの息子さん
卓球大会では、金沢箔みらい研究会の皆様に協力いただき、体育館内でラケットへの金箔貼り体験を開催しました。
金箔の歴史を教えてください。
金箔が日本でいつ頃から作られたかは明らかになっていませんが、古くは奈良時代、東大寺大仏殿に使われていました。石川県では加賀藩祖・前田利家が、文禄2年(1593年)の豊臣秀吉の朝鮮の役の陣中から、七尾で金箔を、金沢で銀箔を製造するよう命じたことが知られています。江戸時代には徳川幕府が金銀銅全てを管理するようになり、江戸と京都の箔屋にしか許可されなくなりました。金沢の箔は、この規制の中で幕府に隠れてひそかに金箔の生産が続けられたという説と、幕府の規制を守って箔打ちは停止され、その後再興されたという2つの説があります。昔は江戸、京都での製造が多くを占めていましたが、大正時代に金沢で箔打機が誕生したことで、金沢で盛んに製造されるようになりました。金沢が製造のシェアを一気に伸ばしたのはこの時代だろうと思われます。
金箔の仕事について
箔職人として一人前になるには10~15年、ひととおり工程を覚えるにも5~7年かかると言われます。金箔の出来栄えは紙の善し悪しで決まると言われていますが、紙の仕込みひとつとっても多くの種類や工程があり、習得するまで時間がかかります。修行期間を経て思い通りに箔を打てるようになると、気持ちよく、面白いと感じます。神社や仏壇などに自分たちが作った金箔が使われますが、その前で皆が手を合わせるような仕事はなかなかないと思います。伝統工芸士としての誇りと責任を感じますし、金箔の仕事の魅力です。
金箔貼り体験はどのように始まったのですか?
石川県箔商工業協同組合で金箔貼り体験を始めたのは30~40年前です。伝統工芸品の歴史や普及のため、職人が小中高の学校に行き、金箔貼り教室を行いました。平成23年の新幹線開業前ごろから、観光客の方々にも体験してもらうようになりました。金箔を取り扱っている会社やお店では、もっと前からお客様に体験してもらっていたようです。
レディース卓球大会で選手の方々にラケットに金箔貼り体験をしてもらいましたが、いかがでしたか。
金沢箔みらい研究会のメンバー全員、ラケットへの金箔貼りは初めてで、バタバタしながらも新鮮で楽しい体験でした。選手の皆様は「せっかく金沢に来たので金沢らしい体験を」と、行列に並んでどんどん参加してくださり、用意したラケット400個が全部なくなったことは嬉しかったです。スポーツ大会での箔貼り体験は初めてでしたが、また別の大会でも新たに金箔を使った取組ができたら面白いと思います。
お答えいただいた方
■ 今井康弘(いまいやすひろ)さん 株式会社 今井金箔 代表取締役
■ 今井由佳 (いまいゆか)さん 株式会社 今井金箔 康弘さんの娘さん
ハンドボールやソフトボール、ウエイトリフティングなどの大会で、今井金箔さんにご協力いただき、金箔ボールの製作やハガキへの金箔貼り体験を行いました。
お店の歴史を教えてください。
およそ120年前の明治31年に初代・今井小三郎が旧百姓町(現幸町)にて製箔業を創業しました。それまでは金箔を販売する際に中間卸業者を介していましたが、全国のお客様に直接売り歩くことを始めました。
明治、大正時代になると、お寺や仏壇で使われる金箔の製造がメインの仕事でしたが、仕事がある時ない時の波があり、仕事がない時には土地を買い、職人に家を建てる手伝いをしてもらうことで職人の生活を支援していました。今は老舗金箔専門店として、美術箔材料のほか、食用金箔や工芸品を取り扱っているほか、金箔貼り体験なども行っています。
人気の金箔貼り体験について教えてください。
平成4年にお店をオープンした際、どうしたらお客様に喜んでもらえるか、金箔をもっと身近に感じていただけるかと考え、金箔貼りの体験を始めました。その頃、金箔専門の各社がそれぞれ、いろんな金箔貼りの体験を考えていて、当社では祖母(今井社長のお母様)が、写真立てなどに使える天然石への金箔貼りを始めました。今もお店で販売しています。金箔ソフトは食べるだけでなく、自分で金箔を貼っていただくこともできます。約10,000分の1ミリの金箔は、息や静電気が大敵。繊細な金箔を扱うドキドキ感を楽しんでいただけます。
どんなものにも金箔は貼れるのですか?
仏壇や建築物などに使われる金箔ですが、接着剤を使って、いろんなものに貼ることができます。プラスチックや陶器などは問題なく貼り付けられますが、自然素材の木や石などは吸水性があるので、接着剤を吸収してしまいます。下処理して接着剤を吸収しないようにして、貼り付けられるようにします。
スポーツ大会の副賞に金箔ボールを作っていただいたり、選手に会場で金箔貼り体験をしていただきましたが、いかがでしたか?
金沢らしさの演出に金箔を取り上げていただいたことは嬉しいです。多くの選手や観客の方々が集まるスポーツ大会で、金箔を実際に見て触り、県内外の方々に知ってもらえる面白い取組だと思いました。これまでソフトボール、ハンドボール、ウエイトリフティングの大会で金箔を取り上げていただきましたが、これから他のいろいろなスポーツ大会でも、このような伝統文化を掛け合わせた金沢らしい取組をしていってほしいです。そしてより多くの方に、金箔の魅力に気づいてもらえたらと思います。
金箔職人による“箔移し”
石川県箔商工業協同組合
株式会社 今井金箔
西日本レディース卓球フェスタ2019・石川大会(2019.11.12~13)
第72回日本ハンドボール選手権(女子の部)(2020.12.23~27)
第54回日本女子ソフトボールリーグ1部第6節石川大会(2021.9.11~12)