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限界を超えてくるパラスイマーたち【コラム】

スポーツを「する人、観る人、支える人」のための、専門家によるオリジナルコラム。
東京オリンピック・パラリンピック水泳会場のメディカルスタッフ(医師)として参加された、金沢星稜大学人間科学部スポーツ学科の奥田鉄人教授。前回の東京オリンピックに続き、今回は間近で見たパラリンピックについてお聞きしました。

限界を超えてくるパラスイマーたち

金沢星稜大学 奥田鉄人教授

金沢医科大学卒業後、同整形外科入局助手から講師へ。W. M. Keck Center for collaborative Neuroscience, Rutgers University (NJ, USA)留学、平成26年から金沢星稜大学人間科学部スポーツ学科教授。
日本整形外科学会専門医、日本脊椎脊髄病学会指導医、日本オリンピック委員会(JOC)強化スタッフ、日本水泳連盟医事委員、アンチ・ドーピング委員など。帯同歴多数あり。


金沢星稜大学人間科学部スポーツ学科の奥田鉄人です。
前回はオリンピックについて書かせていただきましたが、今回はパラリンピックについて書かせていただきます。

競泳最終日の木村選手、富田選手のワンツーフィニッシュには運営スタッフ(日頃からパラ水泳を支えている方々がほとんど)はもちろんのこと、FOP(Field of play:水泳ではプールサイド)の医療スタッフの多くも眼に涙を浮かべ、パラ競技のすばらしさを実感してもらえました。今回の大会でパラ水泳の魅力にはまった医療者は本当に多かったです。皆様はいかがでしたでしょうか?今回の大会はこれまでパラリンピックに多くの日本人が抱いていた印象を大きく覆してくれたのではないかと思います。パラリンピックもオリンピック同様、超人たちの大会なんです。

最終日の医療スタッフ

私はパラリンピック水泳競技に選手向け医療責任者(AMSV: Athlete Medical SuperVisor)という立場で医務室の準備から運営を統括する大変栄誉ある立場につかせていただき、練習期間5日、大会期間10日の計15日間、朝6時から夜23時頃まで長い期間、医務室を管理してまいりました。その中で数多くの限界を超えたパラスイマーをみることになりました。
リオパラリンピックの際の各国のチームドクターの対応症例(期間の対応症例のデータ)をまとめた報告では、パラリンピックで疾病の発生が多い競技はパラフェンシング、車いすバスケとそしてパラ水泳があげられており、本当にこんなに疾病が多いのか疑問を抱いておりました。しかし今回そのデータ通りもしくはデータ以上に、選手用の医務室は救急外来の様に稼働することとなりました。準備した酸素は競技開始3日で無くなり、観客用医務室から借りてくるような状況でした。

他国のチームマネージャー、チーフチームドクターと一緒に撮影

以前日本パラ水泳連盟(当時は日本身体障がい者水泳連盟)の河合会長が、東京パラに向けた強化合宿の際に選手に向けて、「君たちは本当に努力していると言えるのか?オリの選手たちは数多くの選手の中から勝ち上がるために考えられるあらゆる努力をしている。しかしパラの選手は数百名いや数十名の選手の中で勝ち上がればいいのであり、まだまだ努力が足りないと思う」と言ったことがあります。私もこの言葉については同意するところもありました。パラリンピックに出場さえすれば満足するような選手もやはり何名かはいて、これが事実でもあります。

しかし今回のこのコロナ禍を乗り切り東京にやってきたパラスイマーたちは、想像でしかありませんがかなりの困難を乗り越えてきたのではないかと思います。練習できなかった選手もいるでしょうし、COVID-19に罹患してしまった選手もいたでしょう、開催されたことに本当に感謝していることが我々にも伝わりました。現実としてパラアスリートが世界の人々に注目されるのは残念ながらパラリンピックしかないのです。そのためレースでは限界を超えてしまい、レース後に倒れてしまうという選手が続出しました。レースで限界を出し切る能力はオリ(健常者)よりも高いのかもしれません。もちろんパラ選手の方が障害がある分予備能力が低いので当たり前かもしれませんが、このことは各国の医療チームも周知の上で、多くのチームは事前に今日のこのレースで、選手がレース後にお世話になる可能性があるのでよろしくお願いいたします。ということを我々に伝えてくれました。そのため我々もすぐに対応できるように準備をしていました。予想外に何も起きなかった選手もいれば、予想していない選手が医務室に運ばれてきたり、またはプールサイドから我々が搬送したりしました。時には救急車で搬送することもありました。各チームの必死さそして情熱は医務室内でもみられ、我々と口論となることもありました。

これまで私は障がい者に水泳を勧めることが多く、しかしながら水や水中運動の怖さついても説明してきました。障害がある方が激しく水泳をする場合などは自分の心肺機能の限界を超える可能性があります。パラアスリートにとっては競技をすること自体が限界への挑戦となります。そのため今回パラリンピック競技を実際にみられた方々が大きく感動したのではないかと思います。この経験をしてこれからはより一層緊張感をもってパラアスリートのサポートをしようと思うようになりました。東京パラリンピックの開催に尽力していただいたすべての方々に感謝いたします。

 

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