金沢文化スポーツコミッション

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メディカルスタッフから見た東京オリンピック【コラム】

スポーツを「する人、観る人、支える人」のための、専門家によるオリジナルコラム。
東京オリンピック水泳会場のメディカルスタッフ(医師)として参加された、金沢星稜大学人間科学部スポーツ学科の奥田鉄人教授。間近で見た東京オリンピックについてお聞きしました。

水泳会場メディカルスタッフから見た東京オリンピックについて

金沢星稜大学 奥田鉄人教授

金沢医科大学卒業後、同整形外科入局助手から講師へ。W. M. Keck Center for collaborative Neuroscience, Rutgers University (NJ, USA)留学、平成26年から金沢星稜大学人間科学部スポーツ学科教授。
日本整形外科学会専門医、日本脊椎脊髄病学会指導医、日本オリンピック委員会(JOC)強化スタッフ、日本水泳連盟医事委員、アンチ・ドーピング委員など。帯同歴多数あり。


金沢星稜大学人間科学部スポーツ学科の奥田鉄人です。今回のオリンピックは水泳会場のメディカルスタッフ(医師)として参加させていただきました。

競泳、飛込、ASが開催された東京アクアティックスセンター

オリンピックでの水泳は競泳、飛込、アーティスティックスイミング(AS)が東京アクアティックスセンター(TAC)、水球が辰巳国際水泳場、そしてオープンウォータースイミング(オリンピックではマラソンスイミング)がお台場で開催されました。その他にTACでは仮設の練習会場(とはいえ50mプールが1つ、AS用のプールが1つあり大きなものです)がありますので、医務室だけでも全部で4つあります。その医務室に前半(7時から15時)と後半(14時から22時)で2チーム(医師1名ないし2名、看護師、理学療法士等が1-2名で4名程度が1チーム)が出務しますので、21日間(16日は競技期間、5日は練習期間)で総数では医師、看護師、理学療法士、ACA(アスリートケアアシスタント:理学療法士以外の柔道整復師、鍼灸師など)を併せ100名近くの方々が水泳競技だけで関わっております。石川県からも医師1名、看護師3名、ACA1名の5名がオリンピック水泳競技に関わらせていただきました。

実際のところ競技開始5日前の会場オープン時でも、まだAD(アクレディテーション)カードやユニフォームが無いスタッフも多数存在し、会場になかなか入場できないなどのトラブルが多発し、当初、4日で1回のPCR検査がすぐに毎日行うことに変更となったり、毎日試行錯誤をしながらの医務室運営となりました。
その中で今大会は水泳の会場医務室は具体的な数字を述べることができませんが、予想以上に利用者が少なかったのではないかと思います。これまでのオリンピックにおける会場別の医務室使用データはありませんのであくまで印象でしかありませんが、これまでのオリンピック期間の各国メディカルの報告では上気道疾患と、消化器疾患、そして皮膚疾患が多く、確かにちょっとした擦り傷のようなものは毎日のように発生しておりましたが、会場の医務室での上気道疾患はほとんどありませんでした。これはコロナ禍で体調管理が徹底されていることや、マスクを常時着用していることなどが大きく影響しているのではないかと個人的に考えます。

水球会場の辰巳国際水泳場

競技的なことでいうと多くの選手が過度に緊張していたように思えます。無観客であるので緊張は少ないように思えますが、選手によっては逆に緊張は強くなっていたのかもしれません。有観客でのオリンピックの独特の雰囲気はその緊張感をパフォーマンスの向上へ導くことができることも多いと思います。しかし無観客でのあの静寂が過度の緊張をマイナスの方向へ導いた可能性は否定できないと思います。競泳では日本チームの女子選手が2種目で金メダルを獲得しました。その金メダルの背景としてはこれまでに絶対王者として君臨していた選手が、新型コロナウイルスの感染拡大のため十分な練習ができなかったことや、1年間の延期によるベテラン選手のパフォーマンス維持の困難さなどが大きく影響したのではないかと個人的に思わざるをえません。

いろんなシーンを会場のメディカルスタッフとして間近で見られたことは非常に大きな財産ですので多くの関係者に感謝したいと思います。すぐにパラリンピックが始まります。パラリンピック水泳競技ではTACのメディカルスタッフの中でAMSV(アスリートメディカルスーパーバイザー)という選手向け医療のトップとして15日(うち競技期間は10日)出務します。どれだけのドラマが目の前が繰り広げられるのか、不安もありますがワクワクした気持ちの方が上回っております。パラリンピック水泳競技についてはまたご報告させていただきます。

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